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遙かなるヌシ
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竜也は高鳴る鼓動を抑え続けながら、支度に取り掛かった。

実はこの柳の切れ目には、小さな柳が一段下の水際に生えており、丁度岸辺より僅かに高い程に伸びていて、釣り人の気配を隠すにはもってこいであった。

竜也は、愛用の磯竿を3本取り出すと、ベイトリールをセットし、木水から譲り受けた誘導ウキと、ムギのエサを付けた2本針仕掛けを、その小さな柳の手前に扇形に並べて、そっと送り込んだ。

水深はいつもより1mほど増水し、一段目のカケアガリの上で2m、その下で3m程であった。竜也は、両側2本で2mのラインを狙い、真ん中の1本で3mのラインを狙う三角形の形に置いた。

 流れは手前が緩く逆流し、真ん中のウキは下流に傾いていた。

1時間程過ぎても何のアタリも見られず、様子を見るために一度仕掛けを上げてみたが、ムギのエサには何の変化も無く、そのまま同じポイントに打ち返した。すると、程無く一番右のウキがかすかに揺れ、小さくツンと1cmほど引き込まれた後、僅かにボディが持ち上がった。

 すかさず竜也がアワセをくれると重いショックが伝わってきた。

『来たっ!!』

思わず、竜也は叫んでいた。

しかし、返ってきた手応えは予想に反して数秒過ぎてもそのままの位置で動かない。

《あれっ、根掛かりかな?》

竜也が怪訝そうに竿を煽り始めると、暫く間を置いて凄い力で竿が引き込まれた。まるで牛の引きのように、ノシノシという感じで、ゆっくりではあるがどうしょうもない力で竿を伸していく。慌ててドラッグを緩めると、獲物はそのままゆっくりとラインを引き出すと、25m程走ったところでピタリと止まった。そしてビクともしないのである。そのまま5分が過ぎ10分が過ぎて30分が過ぎたところで、竜也は不安になった。

竜也は、こんな手応えは生まれて初めてであった。今年の春に長良川で挙げた95cmの野鯉も素晴らしい手応えであった。一気に100mもラインを引き出し、中々姿を現さなかった。しかし、こいつの引きはまるで違っていた。とても魚の手応えとは思えなかった。

『ひょっとしたら根に入られたのか?』

竜也は心配になって、少し聞いてみる事にした。

今回、ラインは誘導ウキに適した編み糸のPEラインを大物用に8号を巻き、ハリスは同じく6号を巻いてある。強度は30kgもあり、竿の弾力と合わせれば倍の大物にも耐えられる。ただ、竿は誘導ウキを扱いやすいように、しなやかな磯竿の3号を使用しているため、仕掛けに負けている。それでも、今までの獲物は十分対応できてきた。

竜也は、ドラッグを少し緩めると、スプールが逆転しないよう左手の親指で押さえながら、右手をリールより上部40cm程の所で竿を握ると、慎重に強く竿を引き絞った。すると、ゆったりとした手応えが腕に伝わってきた。まるで獲物が尾ビレをゆったりと振っているかのような手応えである。

と思う間に、獲物が動き始めた。最初の手応えと全く同じように、どうしょうもない力で引き込んでいく。その力に耐えられず、竜也がスプールを抑えていた親指を離すと、獲物はゆっくりと25m程走ると、又ピタリと止まった。そして又ビクともしないまま時間だけが過ぎていく。

30分程過ぎたところで竜也はまた不安に駆られて、先ほどと同じように聞いてみることにした。相変わらず獲物はゆったりとした響きを返しているが、竜也の動きに刺激を受けた所為か動き始めた。

今度は、流れに乗って下流に向かい始めたため、25m超えても先ほどのようには止まらずにそのままラインを引き出していく。そして150m巻いてあるラインがどんどん引き出され、スプールの軸が細くなってきた。僅かな柳の切れ目から竿を出している為、獲物に付いて下る事はできない。《もう駄目か?》と、諦め掛けた時

『竜也さん、頑張って!』

後ろから声が聞こえた。朝食の弁当を届けに来た鮎美であった。

続く